ハルヒを見ていると、最初はかなり分かりやすい。
普通の人には興味がない。宇宙人や未来人、超能力者に会いたい。退屈そうに教室で過ごしていたかと思えば、面白そうなことを見つけると急に動き出す。
だから「普通の日常が嫌いで、非日常を求めている子」と説明することはできる。でも、それだけだと少し引っかかる。
どうしてハルヒは、そこまで普通を嫌うんだろう。
ただ刺激が欲しいだけなら、もっと別の楽しみ方もあったはずだと思う。勉強も運動もできる。周囲から見れば、できることの多い人でもある。それなのにハルヒは、今ある世界だけではどこか納得していない。
この記事では、ハルヒが何を探しているのかを、本人の行動や表情から考えていく。宇宙人を探しているように見えるハルヒは、本当は何を見つけたかったんだろう。
ハルヒはなぜ「普通」をつまらないと感じていたのか
入学したばかりの教室で、ハルヒは普通の人間には興味がないと宣言する。宇宙人、未来人、異世界人、超能力者。そんな存在がいたら自分のところへ来い、と。
かなり変わった自己紹介ではある。でもハルヒ自身は、ふざけて言っているようには見えない。
周囲からすれば「変わった人」で終わる話なのかもしれない。実際、その後のハルヒはクラスの輪へ積極的に入るわけでもなく、一人で退屈そうにしていることが多い。
ここだけを見ると、ハルヒが周囲を拒絶しているようにも見える。ただ、少し違う気もする。
ハルヒは人そのものが嫌いなわけではない。面白そうなことには人を巻き込むし、後には自分からSOS団まで作ってしまう。嫌っているのは、人よりもむしろ「何も起こらないまま毎日が続いていくこと」なんじゃないだろうか。
今日も学校へ行って、明日も同じように学校へ行く。世界はこういうものだと決まっていて、その中で普通に過ごしていく。ハルヒには、それがどうしてもつまらなかった。
では、なぜそこまでつまらなく感じたのか。その理由を考えるうえで大きいのが、ハルヒが子どもの頃に野球場で経験した出来事だと思う。
野球場で知った「大勢の中の一人」という現実
ハルヒはキョンに、子どもの頃に家族で野球場へ行ったときのことを話している。
客席には大勢の人がいた。その光景を見たハルヒは、自分もその中の一人でしかないことを強く意識する。
それまで自分の周りにあった学校や友人たちが、自分にとっての世界だった。でも少し外へ出れば、知らない人がこれだけいる。自分が特別だと思っていた感覚は、そこで一度大きく揺らいだように見える。
ハルヒはその記憶を、ずっと後になってからもキョンへ話している。
もちろん、この一度の体験だけですべての人格が決まった、とまでは言えない。ただ、ハルヒ自身が自分の考え方を説明するときに、この出来事を語っていることには意味があると思う。
ここからは少し想像が入る。ハルヒがつらかったのは、単に「自分は特別ではなかった」と知ったことだけではなく、このまま何もしなければ、自分も大勢の中の一人として毎日を過ごしていくと気づいたことだったんじゃないだろうか。
世界にはまだ何かあるかもしれない。自分の知らないものがあるかもしれない。ハルヒが非日常を求める出発点は、「今見えている世界だけで全部を決めたくない」という気持ちだったように見える。
待つのではなく、自分から面白いものを探し始める
そこでハルヒがやったことは、空想の中に閉じこもることではなかった。
宇宙人がいたらいいなと考えて終わるのではなく、自分で探し始める。高校へ入ればSOS団を作り、部室を確保し、仲間を集め、次から次へと活動を始めていく。
現実がつまらないから、現実から逃げた。そう考えるだけでは、この行動力を少し説明しにくい。
ハルヒはむしろ、現実へどんどん入り込んでいく。世界が面白くなるのを待つのではなく、自分から面白いものを探しにいく。
その結果が成功するかどうかより、まず動いてみる。今見えている世界だけで終わらせないために、自分から可能性を増やしていく。そこには、ただ夢を見るだけではないハルヒの強さがある。
キョンはなぜハルヒにとって特別になったのか
そんなハルヒに、最初から宇宙人や未来人が必要だったわけではない。高校で最初に大きく距離を縮めるのは、何の特別な力も持っていないように見えるキョンだった。
毎日変わるハルヒの髪型を、周囲は「また変わったことをしている」と見ていたのかもしれない。でもキョンは、その変化に何か意味があるのかと本人へ尋ねる。
この瞬間にハルヒが「理解してもらえた」と自覚した、とまでは言えない。ただ、キョンはハルヒを変人として処理するだけではなく、なぜそんなことをしているのかへ目を向けた。
見ている人はいても、自分が何を考えているのかまで見ようとする人は少ない。ハルヒがキョンをそばに置き続ける理由の一つには、そういう違いもあったんじゃないだろうか。
そしてキョンも、普通の日常を望んでいるように見えながら、ハルヒから離れない。文句を言いながらも彼女の作る騒ぎに付き合い続ける。普通を信じたいキョンと、非日常を信じたいハルヒは、反対に見えて意外と近いところにいる。
ハルヒが見つけたのは、特別な世界だったのか
ここで一度、ハルヒが実際に何を手に入れたのかを見てみたい。
ハルヒは宇宙人を見つけたと認識しているわけではない。未来人や超能力者の正体にも気づいていない。それでも、SOS団を作る前のハルヒと、その後のハルヒは同じには見えない。
特に左の場面は、宇宙人を探しているわけでも、何か大きな事件が起きているわけでもない。ただ仲間と集まって時間を過ごしている。それでも、一人で教室にいた頃とは違う。
ここで考えたいのは、ハルヒにとって「楽しい」とは何なのかということだ。
宇宙人を見つけたら、それはきっと「うれしい」出来事になる。でも「楽しい」は、その結果が出た瞬間だけのものではない。探したり、考えたり、仲間と騒いだりしている時間の中にも続いている。
宇宙人を見つけたから楽しいのではなく、宇宙人を見つけようとしていることが楽しい。
ハルヒがSOS団で手に入れたものは、案外そこだったのかもしれない。世界そのものが別の世界になったわけではない。でも、自分から動いて、同じ時間を過ごす仲間ができたことで、ハルヒにとっての世界は以前とは違うものになった。
分からないから、世界は楽しい
何でも思い通りになったら、最初は楽しいかもしれない。でも、何をしても必ず思った通りになり、次に起きることまで全部分かっていたら、その楽しさは長く続かない気がする。
くじを引くときに少しワクワクするのも、中に何が入っているか分からないからだ。答えが出る前には、「何が出るんだろう」という時間がある。
ハルヒも同じなのかもしれない。
宇宙人がいるかどうか分からない。未来人に会えるかどうかも分からない。明日、何か面白いことが起きるかどうかも分からない。だから探せるし、自分から動ける。
野球場で大勢の中の一人だと気づいたとき、ハルヒには世界が少し狭く見えたのかもしれない。でもそこで「世界とはこういうものだ」と終わらせず、自分の知らないものを探し始めた。
そして、特別な何かを見つけたと本人が気づかないままでも、仲間と過ごす時間は楽しそうに変わっていった。
分からないから、楽しい。世界は分からないことで溢れている。なら、世界は楽しいに決まってる。
ハルヒが探していたものは、どこか遠くにある非日常そのものではなく、まだ分からないものを探し続けられる毎日だったのかもしれない。そう思って見返すと、最初に教室で退屈そうにしていたハルヒと、SOS団の中で笑うハルヒの間に、少し違うものが見えてくる。
