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クェスはなぜシャアを選んだのか|自分を見つけてほしかった少女

  本編映像と公式資料に基づき、全引用箇所を検証済みです。
クェスはなぜシャアを選んだのか|自分を見つけてほしかった少女

クェス・パラヤは、『逆襲のシャア』の中でも好かれにくい人物だと思う。感情をそのまま周囲へぶつけ、父親やアムロに反発し、出会って間もないシャアへ急速に近づいていく。

その動きだけを追えば、わがままで身勝手な少女に見える。けれどクェスは、シャアの思想を理解してネオ・ジオンを選んだというより、自分を見つけ、必要としてくれる人を探し続けていたのではないか。

彼女は人の心へ強く反応できるのに、自分の感情を安心して置ける相手を持てなかった。父親、アムロ、シャア、ナナイ、ハサウェイとの関係をたどると、なぜクェスがシャアへ向かい、最後まで止まれなかったのかが見えてくる。

クェスはなぜ好かれにくいのか

クェスは、相手の都合を待ってから話す人物ではない。気に入らないことがあればすぐに反発し、自分の感情を相手へぶつける。

しかも、彼女が求めるものは場面ごとに大きく動く。アムロへ強く関心を向けたあと、今度はシャアへ惹かれ、ナナイには対抗するような態度を取る。ハサウェイの思いにも、素直には応えない。

通路で前方を指さしながら強く言葉を向けるクェス
感情のまま、相手へ強く言葉を向けるクェス ©創通・サンライズ

視聴者から見れば、周囲を振り回す行動ばかりが先に残る。そのため、彼女が何を求めているのかを考える前に、「わがままな少女」として距離を置きたくなる。

ただ、クェスの行動を正当化する必要はないとしても、すべてを性格だけで片づけると見えなくなるものがある。彼女は誰かを困らせること自体を望んでいたのではなく、自分を見てくれる人を探すたびに、相手との距離を急に縮めようとしていた。

クェスには安心して戻れる場所がなかった

クェスのそばには、父親のアデナウアーがいる。けれど、家族が近くにいることと、安心して戻れる場所があることは同じではない。

座席で眠る父親の隣から顔を向けるクェス
父アデナウアーの隣にいても、心の距離が埋まらないクェス ©創通・サンライズ

クェスは父親へ強く反発する。父親の行動や人との接し方を見ながら、自分が一人の人間として受け止められていないと感じていたように見える。

そのため、彼女は今いる関係の中で少しずつ信頼を作るより、すべてを分かってくれそうな別の誰かへ一気に近づく。父親との距離は、クェスが大人の男性へ「自分を見つけてほしい」と求める土台になったのではないか。

クェスには人がいなかったわけではない。けれど、自分の感情を出しても見捨てられないと思える関係がなかった。

クェスはなぜアムロへ惹かれたのか

アムロは、クェスがそれまで接してきた大人とは違って見えたはずだ。戦場を知り、ニュータイプとして人の気配を感じ取りながらも、シャアのように人々を従わせようとはしない。

クェスにとってアムロは、自分の内側まで分かってくれるかもしれない人物だった。だから彼女は、アムロとの距離を急いで縮めようとする。

けれどアムロは、クェスの危うさを感じても、その感情を自分が全面的に引き受けようとはしなかった。アムロにはチェーンとの関係もあり、クェスの求める形で彼女だけを見ることはできない。

アムロの対応を、単純な拒絶と決めることはできない。大人として距離を保とうとしたとも読める。ただ、クェスの側には「分かってもらえなかった」「自分は選ばれなかった」という感覚が残ったのだと思う。

人類を自分の考えで導こうとしなかったアムロの態度は、別の記事で詳しく見ている。未来を支配しなかったアムロから見る↗

クェスはなぜアムロではなくシャアを選んだのか

シャアは、クェスを子どもとして遠ざけるのではなく、彼女の感応力と可能性へ早くから目を向けた。クェスはそこに、自分を見つけてもらえたような感覚を持ったのではないか。

彼女はシャアの言葉へ強く反応し、その考えに同調する。けれど、クェスがネオ・ジオンの理念を十分に理解したうえで加わったというより、シャア本人へ惹かれていく動きの方が大きく見える。

空の下で車両から身を乗り出すクェス
シャアの言葉に同調するクェス
ナナイを背に目を閉じて立つクェス
シャアをめぐり、ナナイへ強く反発するクェス

クェスにとって大きかったのは、シャアの思想が正しかったかどうかではない。自分の力を認められ、必要な存在として扱われたことだった。

アムロは彼女の危うさを見て距離を取った。シャアはその危うさを含めて、自分の計画の中へ迎え入れた。この違いが、クェスをアムロからシャアへ向かわせたのだと思う。

クェスが選んだのは、まず思想ではなく、自分が必要とされる場所だった。

シャアはクェス自身を必要としていたのか

シャアはクェスの力を認め、戦場で役割を与える。クェスは専用の機体へ乗り、やがて巨大なモビルアーマーであるα・アジールも任される。

コックピット内で笑顔を見せるクェスと、その背後に浮かぶ赤いモビルスーツ
ニュータイプとしての力を認められ、戦場へ入るクェス
中央のコックピットにクェスが乗る白い大型モビルアーマー
α・アジールに乗り、戦力として位置づけられたクェス

ここでクェスが得たのは、明確な役割だった。自分には特別な力があり、それを必要とする場所がある。父親やアムロとの間では得られなかった手応えを、シャアのもとでは感じられた。

ただし、シャアが必要としていたのは、クェスの不安も含めた彼女自身だったのだろうか。作中の配置を見る限り、シャアが強く求めたのはニュータイプとしての力であり、その感情を最後まで受け止めたとは言いにくい。

クェスは「自分を必要としてくれた」と感じた。シャアは「作戦に必要な力を得た」。同じ関係の中にいても、二人が求めていたものは最初から重なっていなかった。

アムロへサイコフレームを流した行動にも、シャアの勝ちたい思いと迷いが重なっていた。シャアの迷いをサイコフレームから見る↗

ニュータイプの力は、なぜクェスを救わなかったのか

クェスは、人の心へ鈍い人物ではない。むしろ、周囲の感情や気配へ強く反応し、自分を理解してくれそうな相手を敏感に探している。

けれど、人の心を感じ取れることと、人との関係を作れることは別だった。相手の感情が見えても、自分の不安をどう伝え、どう受け止めてもらうのかは分からない。

宇宙服姿で機体のハッチから身を乗り出すクェス
ナナイにぶたれたことを、シャアへ訴えるクェス ©創通・サンライズ

ナナイにぶたれたことをシャアへ訴える姿には、戦力として大きな力を持つ一方で、誰かに守ってほしい少女の感情が残っている。能力が高まっても、安心できる関係が作られたわけではない。

クェスの場合、感応する力は他人を深く理解するためだけに働かなかった。拒まれたことや、自分が一番ではないことにも敏感になり、不安と嫉妬を強くする方向へ向かっていく。

宇宙空間で交戦する白いモビルスーツと複数の機体
人との関係を築けないまま、戦場の力へ変わっていくクェス ©創通・サンライズ

人の心は感じられる。けれど、その感情を受け止める足場がない。クェスのニュータイプとしての力は、居場所の代わりにはならなかった。

ハサウェイの思いはなぜクェスに届かなかったのか

ハサウェイは、クェスを兵器として必要としたわけではない。彼女自身を思い、戦場から連れ戻そうとする。

宇宙空間で白いモビルスーツへ近づく緑色のモビルスーツ
クェスへ呼びかけ、戦場から戻そうとするハサウェイ ©創通・サンライズ

それでもクェスは、ハサウェイを自分の居場所として受け入れられなかった。ハサウェイはクェスと近い位置にいる少年であり、彼女が求めた「自分のすべてを分かってくれる強い大人」ではない。

クェスは、対等な関係の中で少しずつ相手を知るより、自分を一度に理解し、導いてくれる存在へ惹かれていた。そのため、利用せずに向き合おうとしたハサウェイの思いを、すぐには受け取れなかった。

ただ、最後の行動を見ると、彼の思いがまったく届いていなかったとも言い切れない。

ピンク色のパイロットスーツで前方を見据えるクェス
最後の瞬間、ハサウェイへ「どきなさい」と叫び、助けようとするクェス ©創通・サンライズ

クェスは最後の瞬間、ハサウェイを危険から遠ざけようとする。彼女は誰かを思えなかったのではない。自分の感情をどう相手へ返し、どう関係として育てればよいのか分からなかった。

クェスが求めていたのは、思想ではなく居場所だった

クェスがシャアを選んだのは、ネオ・ジオンの思想を理解し、その未来に納得したからではないと思う。父親との間では自分を見てもらえず、アムロには求めた形で受け止めてもらえなかった。そのとき、力を認め、役割を与えたのがシャアだった。

けれど、そこで得たのは安心できる居場所ではなく、戦場で必要とされる立場だった。シャアはクェスを拒まなかったが、彼女の不安や依存まで引き受けたわけではない。

人の心を感じ取れる力がありながら、自分の心を置ける関係を持てなかった。そのためクェスは、理解してくれそうな人を見つけるたびに強く近づき、思い通りにならないと別の場所へ走っていく。

クェスはシャアを選んだ。けれど、本当に探していたのはシャアその人でも、その思想でもなかったのかもしれない。

自分を見つけ、自分の力だけではなく、揺れる感情まで含めて必要としてくれる誰か。クェスが最後まで得られなかったのは、その人と時間をかけて作る居場所だったのだと思う。

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